一番大切なモノ


「危ないっ!」

グラウンドで部活をしていた野球部が悪かったのか、いつの間にか降りだした小雨が悪かったのか、その時廊下を歩いていた人が悪かったのか、気付いた時には窓ガラスが割れ、紙が舞い、ボールが廊下に転がっていた。

「いってぇ、…圭志?」

その時、運悪く廊下を歩いていた人物京介は突き飛ばされた衝撃で受け身も取れずぶつけた体を起こしながら直前まで自分の隣を歩いていた圭志を探した。

「っぅ…」

「圭志!」

すると圭志はすぐ側でうつ伏せになり、倒れていた。

京介は散らばった紙に構わず、踏みつけて圭志に駆け寄る。

「おい、圭志!」

「京…」

頭をぶつけたのか圭志は何度か頭を軽く振り、右手を頭に添えて起き上がろうとする。

「動くな。今、保険医を呼ぶから動くんじゃねぇ」

京介は膝をつき、圭志の頭をその上に乗せる。

そして取り出した携帯で静と宗太へ電話をかけた。

「大袈裟過ぎ…。俺は大丈夫だって」

電話をしている京介を下から見上げて圭志は苦笑した。

「怪我人は黙ってろ」

しかしその後、圭志の大丈夫は大丈夫でなくなることとなる。

数分後、保険医と宗太が駆けつけ圭志はその場で手当てされた。

「頭を打った、か難しいな。一日寮の方で様子を見ようか。隣の部屋を空けてくれれば僕はそこで待機できるけど…。神城くんも黒月くんも他は掠り傷で大したことはないね」

保険医の話を聞きながら京介は宗太に目配せする。

「すぐに準備してきます」

それに頷き宗太は足早にその場をさった。
また、安静にと告げられた圭志は京介の手によって寮まで運ばれた。

「さすがの俺でもコレは恥ずかしい」

「しょうがねぇだろ。我慢しろ」

寮の七階、生徒会長室。もとい今は京介と圭志の部屋とかしている一室、その寝室のベッドへと京介は圭志を下ろした。

「だからって普通横抱きはねぇよ。せめて背負って運べ」

ブツブツと文句を呟く圭志を見下ろしながら、京介は手慣れた様子で圭志のネクタイをほどきワイシャツのボタンを外していく。

「そんな事今さらだろ。奴等にゃ見せつけときゃいい」

フッと口元に弧を描き、圭志の唇にキスを落とすと京介は立ち上がった。

「着替え持ってくるから大人しくしてろよ」

「おぅ」

圭志の視界から京介がいなくなると、圭志は表情をだらしなく緩めた。

「他の奴等が今の京介見たら驚くだろうな…」

普段の俺様な態度から想像できないぐらい京介は優しい。

それは自分にも言えることなのだが圭志は気付いていなかった。

一人笑っていればいきなり頭がズキリと痛んだ。

「―ってぇ」

そこへ京介が圭志の服を持って戻ってくる。

「どうした圭志?痛むのか?」

右手を頭に添えた圭志を見て京介が険しい表情浮かべた。

「いや、大丈夫。一瞬痛んだだけで」

痛みの治まった圭志は添えていた右手を振って大丈夫だと笑った。








その夜、

京介の腕の中で眠る圭志は痛みで目が覚めた。

ズキン、と頭が鈍い痛みを発する。

「―っ。京、介…」

「ん…?」

「頭いてぇ…」

その言葉にうとうとしていた京介の意識がはっ、と覚醒した。

圭志に振動を与えないよう体を起こすとサイドテーブルに置いてあった携帯を手にとる。

そして、すぐに連絡を受けた保険医がやってきて圭志の診断を始めた。

「応急処置として今痛み止の薬を飲んでもらったけど心配だから明日、って言ってももう今日か。病院で検査をしよう」

治療道具一式が入った鞄を閉じて保険医は京介にそう言った。

「分かった。朝一で行く」

軽く処置を施された圭志は痛み止の薬を飲んだ後点滴をされていた。

薬が聞いたのかすぅすぅと穏やかな顔で眠っている。

「それじゃ僕はこれで」

「あぁ、夜中に悪かったな」

京介の口からそんな言葉が出てくると思わなかったのか保険医はぱちりと目を瞬いてからクスッと笑みを浮かべた。

「どういたしまして。また何かあったらすぐに連絡してね」

保険医はそう言って部屋を出ていった。



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